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第8章 あなたを見つめて






わたしは出来る限り授業に集中する様努めた。予習をしていた事が功を奏し、少し考える余裕も出来た。そしてテラスでの出来事を振り返り...考えた。僅かばかりの知識をもとにわたしなりの答えや、可決策を考えた。
過去に読んだ小説に答えはあるだろうかとさえ考えた。やはり最初の思う通り、答えは1つしかなかった。意識の中で小説をぱたりと閉じた。その様な事を考えている内にチャイムが鳴り、時間が動き出した。


授業の合間の休憩時間にあなたと帰る約束を取り付けた。丘の上公園へ寄ろうとも話した。本来ならば、あなたの好きな場所でも良いのだろう。だけど、話したい事もあり、待ち行く人々を見て時間に追われるのは避けたかった。そして何より、わたしは静かな場所、静かな日常を好んだ。


「......」


「...?...絢辻さん?...どうしたの?」


わたしはあなたを覗き込む様に見つめた。照れた表情が反応として返ってきた。わたしはこの眼が好きだ。まるで犬が懇願する様な眼。あなたはわたしを無垢な眼で見てくれている。あなたの眼をわたしが気に入っている事は、きっとあなたは知らない。時間が経てば伝える事も出来るだろうけど、今は秘密にしておこう。


「...何でもないわ。橘君、じゃあ放課後ね。」


「わかったよ。」



何事もなく放課後を迎えた。


わたしはあなたの左隣に並び、丘の上公園に向かった。
今日は何時もより早く日が沈み、空を朱く染めていた。段々と冬の季節が近づいてきていた。吐く息も白く、濃くなり、街行く人達の足並みはまばらだったが、急ぐ様子に変わりはなかった。子供は大人に手を引かれ、大人は子供に手を引かれ、その場所に居た。
わたしは寒い季節は特別好きではないが、用事を早く済ませてしまうと自宅にいる時間が長くなる為、急ぐ事はしなかった。何よりもこの時間を大切に過ごしたかった。薄暗くなった空を見上げて、あなたもそう思ってくれる事を願った。



公園は閑散としており、風は強く、相変わらず人はいなかった。無理も無い。こんな寒い季節に外にいる人は子供か学生くらいじゃないだろうか。わたし達はもうじき来る大晦日、年越しを迎えるだけだった。急を要する事は何一つ無かった。
あなたを見つめた。少しだけ感傷に浸っている様子だった。
もうすこしだけあなたの様子を見た。1年を振り返っているのだろうか。相変わらず浸っていた。
わたしは自動販売機で缶コーヒーを2つ買い、あなたに渡し、それで自分達の手や頬を温めた。公園のベンチに座ろうとして、あなたはベンチの埃を払ってくれた。わたしは御礼を言い座った。太陽が空の舞台を降り、これから月が舞台に上がろうとしていた。冬の夜は月が長く空を独占出来た。星はいつだって素晴らしい名脇役であった。わたしの子供の頃に夢だって運んでくれた。子供の頃から解っていた。
もしかしたらわたしは変わっていないのかも知れない。


わたしとあなたはそんな空のやりとりを、知ってか知らずか見つめていた。



「はぁ......」

「どうしたの?絢辻さん。」


「1日って途方も無く長い時間よね。...」

「そうだね。...でも僕..楽しいよ。...それは自信を持って言えるかな。」

「そう。....かもね。..うん。わたしも楽しいわ。」

「ほ、本当!?」

「嘘。」

「........」

「普通同じ手に何度も引っかかるかなー?....冗談よ。本当にそう思ってるわ。ほらっ橘君。
ちょっと立って見て。」

「えっ....うん。」



そこには確かにあなたが居て、あなたの手があって、温もりがあった。その眼は真っ直ぐにわたしを見つめてくれていた。わたしの右手はあなたの左手を取って、あなたの右手はわたしの髪を愛でてくれた。風が心地よく吹き渡った。その風は公園を吹き抜け、街全体を吹き抜けた。
クリスマスパーティーで2人で踊ったダンス。わたしはあなたにステップを合わせ、あなたは一生懸命応える。
あの時と同じ、暗闇の中で踊った。違う事と言えば、校舎よりも広い街、校舎よりも狭い公園だけだった。そしてわたし達は恋人になった。


わたしは最高に気分が良かった。ローファーでタイルを叩く音が辺一面に響き渡った。その音も暗闇の公園に響き渡り、やがて溶けて沈黙が返ってきた。公園にはクリスマスの面影は無く、ただ静かに翌年を迎えようとしていた。それでも微かにクリスマスの残り香が漂っていた。
あなたがつまずかない様に、わたし達の道に躓きの石が無い様に、暗闇の中、互いに見失わない様に。離さない様に手を固く握り合った。






........
わたしはあなたの過去の出来事を問いたださなかった。わたしの身を護る為なのかも知れない。.....怯えかも知れない。過去に辛い出来事があっても、あなたならきっと乗り越えてくれると信じた。眼の前にはあなたが居る。ここが暗闇でも、火が灯る様に明るく、例え世界の果てだとしても、わたしは怖くはなかった。
今、わたしの居る世界は綺麗だった。風景の綺麗さではなく、心情風景が綺麗に描き出しているのかも知れなかった。それまでの世界は....怖くて想像したくもない。恋をして景色が目新しく見え、そして輝いている。今となっては理屈で物事を考えるのではなく、時には感情のまま、行動出来た。


ーーわたしを見つけて。ーー


以前のわたしはそう言って、部屋の姿見鏡を通して自分を見て、机に突っ伏して、誰もいない部屋でそう呟いていた。手帳を落とした事は今のわたしにとって、些細な出来事だったとあなたに言えるかも知れない。いえ。きっとそう言える。

わたし達は足を止め、手を握ったまま向かい合った。
吐く息が2つ混ざり合い、空へと消えて行く。恥ずかしかったせいか、お互いに眼を反らした。



「..橘君。....わたし。」


ーーありがとう。わたし幸せよ。ーー


わたしはそう言いたかった。心の底から。
でも、言わない事で少しだけあなたに意地悪してみたい気持ちもあったし、言った所で軽々しく聞こえそうな気もしていた。
伝えたい言葉は沢山ある。だけど。
本当に。本当に大事なときに言葉が出ない。理屈じゃない強い気持ちがあった。それでもわたしは言葉に出来なくて、とてももどかしさを感じた。


「何?..絢辻さん。」

「...ううん。..何でもないわ。」


わたしもあなたもいずれ社会に出る。そしてその社会に認められたら一番にこの言葉を伝えよう。
焦る必要は無い。あなたは一緒に居てくれる。その時まで一緒に過ごせるこの時間を、大切に過ごしていこう。
わたしを見つけてくれた。あなたの眼はそれを感じ取っていたかはわからないけど。わたしはそこに寄り添い、そこから一緒に歩き、またそこに還る事が出来る。手をつないで、笑って、喧嘩して、怒って、泣いて。




それでもこの場所に。




何時も同じ場所に、あなたが居るから。








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テーマ : 二次創作
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