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第5章 理解




辺を一通り見回し、テーブル付近に荷物を置いた。
部屋の作りや普段慣れ親しんでいるものを見ると、少なくとも物を大事にする人なのかなと見受けられた。ただわたしとは趣味も価値観も多少違う事も解った。

わたしが来る前に慌てて片付けたのだろう。場違いな所に場違いな物があったり、荷物が散乱してたのにそれを無理矢理押し込んだ形跡もある。それ以外に目につく所は特になく、至って普通、シンプルな部屋だった。あなたの好みの本は昨夜美也ちゃんが創設祭の露店で販売していたから、恐らく今はもう、無い。タワー型のパソコンがあり、近くにはあなたの趣味...と言うべきかは解らないが幾つかフィギュアもその場に立っていた。本棚には教科書や少数の参考書もあり、内一部は埃がかぶっている。きっと参考書を買って、買った事で目的が達成された様な、物の使い道というのが余り出来ていないのだろうと思う。わたしが使う参考書は少なくとも埃はかぶらないし、書籍が傷む事はあるけれど、ここまで雑な使い方はしないだろうな。と思った。机を見ると、なんと言うかあなたの勉強の姿勢や、感情がその場に放置された様な、お世辞にも綺麗とは言えない光景だった。ノートを開いているが、そこには勉強途中よりかは、漫画のイラストや落書きの割合の方がノートの面積を占めていたからだ。わたしはその箇所を見て、眉をしかめるとあなたは様子に気づいたのか、慌てて机周りを雑に片付け始めた。その様子を見てわたしは笑った。

「しっかりしなさいよねー。...全くもう...」

「いやぁ...ごめん。」

わたしは人の面倒を見るのはそこまで好きではないが、あなたの様子を見て、特に嫌悪感を抱く事も無かった。きっとわたしの表情は実にあっけらかんとしていただろう。

「まぁいいわ。...今日は自宅にあげてくれてありがとう。一緒にケーキでも食べない?」

わたしはそう言って、片付け途中のあなたを制止させた。部屋の中心にあるテーブルへ手招きした。

「そう...だね。...」

「謝らなくていいのよ。だって急にお邪魔するって言った訳だし。しょうがない事じゃない。」

「まぁそうだけどね。でも絢辻さんは汚い部屋は嫌でしょ。」

「そうね。嫌いだわ。普段から気をつけさえしていればこうはならなかったんじゃないかしら。」

「うぅ...」

「ふふっ」

何時ものやり取りをした後、ケーキを口に中に運んだ。味はそこまで悪くなかった。あなたはおいしいおいしいと言ってすぐに半分も食べてしまった。紅茶はそこまでの味ではなかった。仕方が無いとさえ思った。前途した様に急にお邪魔した事もあり、きっと自宅にあったもので何とか間に合わせてくれたのだろう。時間があったら、いや。時間を作ってわたしのお気に入りのお店に誘ってみようと思った。何より、わたしの好きな飲み物を覚えていてくれた事が嬉しかった。

「絢辻さん。」

こういった何気ない日常、わたしじゃなく表面上のわたしが社会に出たとして、この日常を得られたのだろうか。仮に社会に出たとして、わたしは社会に揉まれ、労働に励み、人と付き合い、わたしよりも優れてる人間にも会うだろう。そしてわたしは疲れる時もあるだろう。その時わたしは社会に出て後悔していないとは言えるけど、...その先には何があるだろう。1人で過ごす事で虚無感や焦燥感といったものを味わうかも知れない。それは夜空の様に途方もないものだろう。家を出て、自立する事が1つの通過点であって、社会に出る事が最終的な目標だとしても。それはあまりにも広く、そして頂が見えない山頂みたいなものだろう。

「絢...辻さん?」

そういうわたしも居て。あなたと一緒に過ごすわたしもいて。あなたと一緒に居る事で少しは強くなった...正確には希望を持てたのだろう。
ーーだけど。もしあなたが居なくなったら。お互いの意思で別れる事なら、状況やわたし達が少しでも進歩していれば、すごく嫌な事だけどまだ納得出来る時もあるだろう。でも。あなたやわたしが不慮の事故で...ある日...突然...その時はどうすればいいのか。胸をえぐられる思いだ。ーー
わたしは何を考え、何を想い、あなたの顔を思い浮かべれば良いのか解らない。

「......幸せって怖いものね。」

「...どうしたの?急に。」

「だって、幸せな状況を継続したいでしょ。でもその反面この幸せが無くなったら。って考えると堪らなく不安になるの。期限があるならもっと冷静に向き合えるし、割り切る事だって出来る。だけどそれは出来ない。したくもない。わたしを見てくれた人はあなたが最初で最後だって。そう思いたいし、そうしたいから。...だからわたしはあなたを亡くしたくないの。...契約とかじゃなくて。何時だって、何処でだってあなたが居て欲しいのよ。その場に絶対的な存在として。言葉で誓ったり法律で一緒に居る事は出来るけど。そう言う事じゃないのよ。」

「......そう...だね。」

あなたは困っただろう。わたしだって海の深さがわからなければそこに飛び込みたくはない。ただ少しでも言わなければ解らないだろうと思い、言葉を口にした。正確な答えや模範解答はないだろう。それでも、あなたに答えを求めた。

「僕は、...初めてこう...初めて好きになった人と結ばれたのって絢辻さんなんだ。絢辻さんが言いたい事解るよ。何かを亡くす事は辛いと思う。だから一生懸命に絢辻さんと過ごす事に決めたんだ。毎日毎日。一緒に遊んだり、買い物したり、...キスしたり。積み重ねて僕の中で宝物にして絢辻さんと大事に育んでいく。一緒に過ごす時は楽しかったりするよね。その時は後何時間でこの遊びも終わってしまうんだ。って僕は考えないよ。その時々を一生懸命に遊ぶし、懸命に過ごすから。...なんて。なんて言っていいか解らないけど、きっとそう言う事なんだ。だからって訳じゃないけど。...少しずつ絢辻さんと埋めて生きたいんだ。」

「......」

「......」

「...ふふっ。橘君。...ありがとう。」

「ううん。...答えになったのかな?」

「ベストな答えじゃないかもね。...でも...気持ちは伝わったと思うわ。」

「なら良かった...かな?」

わたしは少しばかり涙ぐんでいたと思う。あなたが左隣にいて、その涙に気付かれない様に反対側を振り向きバックからハンカチを取り出し、そっと涙を拭う。わたしはベットに背中を預けていたが、あなたに預ける事にした。少しあなたの鼓動が早まった様に感じたがそれは気のせいではないだろう。


2つのケーキが、波に地表をえぐられた様に立っていて、今にも崩れ落ちそうだった。でも何とかお互いに支え合っている様にも見えた。そんな様子を眺めていて、少し経ってわたしは振り返った。

わたしとあなたは互いの許可を取る事もなく、キスをした。今までで一番長いキス。ケーキの甘い香りと紅茶葉の苦み。そしてわたしの涙が混ざり合い、昇華された。初めは肌を確かめ合う様なキスを何度も重ねた。あなたは徐々に唇を開け、わたしがそれに応え、舌を差し出しお互いに受け止めた。互いの舌で未知の空間を這う様に求めた。互いの水分を掬う様に、時には赤子の肌を触れる様に優しく、時には普段のあなたに接する様に激しく、緩急をつけて潤いを求めた。あなたはわたしの髪を撫でて、少し暖まった手で頬に触れる。わたしはその手を感じて強めに唇を吸う。わたしの手はあなたの背中に預けた。悪戯っぽく少しつまんだりもした。あなたはわたしの思いに応えようと更に吸い上げる。これが路上や外での行為ならば、きっと恥も外聞も無いだろう。だけど今は2人の閉じた世界で、世界はわたし達のものだった。

ーーわたしがこの世界で法を取り仕切って取りまとめる。あなたはその法律に従い、行動する。いい?罪を犯せばわたしが罰する。罰は何だっていいのよ。わたしが思いついたらなんでもしてあげる。痛い事も苦しい事も。それでもあなたは幸せでしょう?ーー

そんな事を考えているうちにわたしの本能の陰で眠っていた理性が起き上がってきた。いつの間にか、わたしは本能に覆われていた事に今気付いた。そのまま本能に支配されていたら....と一瞬考えたが、わたしはその場合の対処も、覚悟もしてきたつもりだ。
時間にして約1分だったと思う。感覚的には途方もない時間だった。きっとあなたとわたしは頬を紅く染めていたと思う。

「もう.......調子に乗らないでよねっ!」

「ごめん。絢辻さん...でも絢辻さんもすごかった...」

あなたの言葉が言い終わる直前にわたしはあなた頬を引っ叩いていた。



...
時間は夕刻にさしかかろうとしていた。
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