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第6章 晩餐




その後は短い時間を惜しむかの様に寄り添い、確かめ合った。そのままで2人で映画を鑑賞した。わたしもあなたも以前見ていた作品だった。特別感慨深い事は無かったが、自分以外と観る事で学校では言えない様な不思議な事を共有するような気がした。
また勉強の進み具合を話したり、勉強を教えたり、あなたの苦手な科目を見たり、とにかく沢山話して過ごした。

「橘君は何でそんなに出来ないのかなー?」

「....そんなっ!? ....絢辻さん酷い....」

「あははっ!....あなたが努力を怠ったのが原因ね。....しっかりしてよね。解らなくなったらわたしも手伝ってあげるから。....時間があったらだけどね。」

「ありがとう。絢辻さん。....そんな....数学だけは自信があったのに。....」

そのようなやり取りをして、何時しか夜を迎えていた。

予定ではわたしは帰るはずだった。だけど、あなたや美也ちゃんの説得もあり、晩御飯だけ頂く事になった。あなたの家族との団欒。出来れば避けて家路に着きたかった。わたしは家族の温もりを感情の奥底にしまい込んだから。思い出す事が怖かったのかも知れない。触れられるのも。きっと帰ったら少しだけ家族に期待してしまうのではないかと思った。環境が少しだけ変わって、期待をする事により絶望を味わいたくなかった。期待するのはあなただけで良いとさえ思っていた。出来れば触れて欲しくなかった。そんなわたしの囁かな願いも美也ちゃんの前には届かなかった。まぁ事情も知らないだろうし、美也ちゃんも喜んでくれるなら良いだろうと思い諦めた。


わたしは美也ちゃんの様子を窺った。俄然笑顔を振りまいていた。妙だなと思った。
今日お邪魔した時はうっすらと涙を浮かべていた。多少なり違和感を覚えていた。その真意を知りたかったのだ。普通なら兄の好きな人が来るくらい、たいした事でもないのに。涙を流す程の事ではないと思う。だけど今聞き出すのは得策ではないかも知れない。もしかしたら気を悪くするかも知れない。後日改めよう。


あなたの両親はわたしが想像していた通り、きっとそれ以上に優しく、暖かい人達だった。わたしが家族に固執しているのが惨めで、ちっぽけな位に笑顔で受け止めてくれた。その笑顔はわたしが十数年間見てきた、荒んだ世界を少し洗い流してくれた。ご飯は普通のご飯だと思うが、ただただ美味しく味わえた。ちょっとばかり食べ過ぎたのかも知れない。でもその時はそんな事も気にならなかった。学校の話、あなたの話、友人、クラスメイトの話等、些細な談笑も出来て、わたしを家族の様に接してくれて、受け入れてくれた。皆が皆笑顔で、時にはあなたは照れてもいた。わたしの家族に連絡をした方が、と言ってくれたが、何とか言い訳して難を逃れた。それは表面上だけかも知れない。でも出来るだけ考えない様に過ごした。一度考えたら出口の無い底に突き落とされそうで、傷つき事、悲しむ事、それが怖かった。


夜も深くなってきた。両親はあなたに送ってあげる様に伝えて、わたしは御両親に御礼を言って、厚意を受け入れた。その帰り道。母娘の猫が川辺を歩いていた。その場に留まり道端から河を眺めていた。母猫は毛繕いをしていた。子猫はただそれを見ていた。共に毛並みは綺麗で、黒と白でくっきりと別れていた。飼い猫かどうかは解らなかったが、首輪がないのできっと野良なのだろう。寒い季節なのに寒いという意識すら母娘の猫からは感じなかったしそれを表に出す事も無かった。寄り添って、眺めて。....きっと見えない愛情。信頼。恐らくはそうだろう。その先に見える景色は終わりの景色なのか、始まりの景色なのか、わたしには皆目見当がつかなかった。ただその佇まいからは気高さを感じた。わたしとあなたは少しずつ少しずつ、噛み締める様に、今日の別れを惜しむ様に歩を進める。日付が変わればまた会えるのに。そう思ったが今日という日の終わりは刻一刻と迫っていた。


ーー春の季節だったら桜が咲き乱れ祝福が訪れるのだろうか。ーー
ーー夏の季節だったら蛍の光が幻想的に夏の夜を奏でるだろうか。ーー
ーー秋の季節だったら広葉樹が葉を落とし月夜の晩、路面一杯に広がるのだろうか。ーー
ーー冬の季節だったらわたし達もあなた達も寄り添う様に暖を取るのだろうか。ーー


今日は月がやけに近く感じた。わたし達を見守っている様な、それとも見定めている様な、月もわたしも真偽の程は定かではないだろう。わたしも、きっとあなたも、限られた状況で、その時の最善の策を尽くしてきたつもりだ。限られた数の選択肢があって、行動によっては必ずしも望まれる事だけではなかった事もある。わたしは何時だって手札のカードは決して多くはなかった。あなたの言葉でわたしは現実に引き戻された。


「絢辻さん。..明日から学校だね。早く冬休みにならないかな。」

「そうねぇ。..休みになれば橘君に色々連れて行ってもらえるし...ね?」

「ははっ..そうだね。....任せてよ!」

「期待してるわよ。..でも本当...すごく妹さんと仲が良いのね。....ちょっと妬いちゃうかも。」

「絢辻さん何か言った?」

「ふふっ。別に。何でもないわよ。........でも不思議よね。あんなに優しそうな御両親から、こーんなどうしようもない変態が生まれてくるなんてね。」

「なっ!...絢辻さん。それはないよ....」

「あははっ。だって本当の事じゃない。....送ってくれてありがとう。」

今日は何時もの河原ではなく、自宅の近くまで送ってもらった。わたしは遠慮したのだけど、夜道は危険だからとあなたが気遣ってくれて、その言葉にわたしは甘えた。形式上の挨拶をして、想定外のキスをした。路上でいちゃつく人が多いけど、今のわたしには何となくだけど理解出来た。

そして音を立てない様に自宅へ上がり込み、自室へ戻った。日頃わたしが好んで聴いているクラシックを少音量でかけた。森林の中の湖に佇むわたし、その湖の中でわたしの感覚や、細胞が水に溶けて分解される。皮膚や毛髪の1つ1つが自然に還る。やがてわたしは樹木となりその地に根を張る。
今日はゆっくり出来たのか出来なかったのかは解らないが、とても心地よかった。早速明日の予習をして、今日は何時もより早く床につこう。


今日の続きを夢で見たいと願った。いつの日か言った様に。
わたしは我侭で寂しがり屋なお嬢様。あなたはいつもよりほんの少しだけしっかりした執事。
そんな夢。
あなたと夢で遭えたら。
わたしはもっと素直に笑えるかも知れない。そう思い、願った。

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